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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)9498号 判決 1999年2月26日

甲事件及び乙事件原告(以下「原告」という。)

A

甲事件原告(以下「原告」という。)

B

外三二名

右原告ら三四名訴訟代理人弁護士

山下潔

関戸一考

伊賀興一

石川元也

宇賀神直

金子武嗣

鎌田幸夫

木下和茂

国府泰道

笠松健一

谷田豊一

豊川義明

豊島達哉

乕田喜代隆

藤木邦顕

細川喜子雄

森信雄

森下弘

吉岡良治

白倉典武

畑中和夫

右原告A訴訟代理人(乙事件)

兼右山下潔訴訟復代理人(甲事件)弁護士

永岡昇司

右山下潔訴訟復代理人弁護士

山田二郎

甲事件被告(以下被告」という。)

右代表者法務大臣

中村正三郎

右指定代理人

山崎一樹

外二名

甲事件被告(以下「被告」という。)

大阪市

右代表者市長

磯村隆文

右指定代理人

河村浩一

甲事件被告(以下「被告」という。)

高槻市

右代表者市長

江村利雄

右指定代理人

東勉

甲事件被告(以下「被告」という。)

茨木市

右代表者市長

山本末男

右指定代理人

深谷隆昭

甲事件被告(以下「被告」という。)

吹田市

右代表者市長

岸田恒夫

右指定代理人

後藤一郎

甲事件被告(以下「被告」という。)

門真市

右代表者市長

東潤

右指定代理人

南治郎

甲事件被告(以下「被告」という。)

八尾市

右代表者市長

西辻豊

右指定代理人

磯辺利夫

甲事件被告(以下「被告」という。)

河内長野市

右代表者市長

橋上義孝

右指定代理人

山田彰男

甲事件被告(以下「被告」という。)

岸和田市

右代表者市長

原曻

右指定代理人

山本憲明

甲事件被告(以下「被告」という。)

泉南市

右代表者市長

向井通彦

右指定代理人

市道登美雄

甲事件被告(以下「被告」という。)

泉佐野市

右代表者市長

向江昇

右指定代理人

昼馬剛

甲事件被告(以下「被告」という。)

西脇市

右代表者市長

内橋直昭

右指定代理人

内橋敏彦

甲事件被告(以下「被告」という。)

加古川市

右代表者市長

木下正一

右指定代理人

三宅秀樹

甲事件被告(以下「被告」という。)

姫路市

右代表者市長

堀川和洋

右指定代理人

勝又利彦

甲事件被告(以下「被告」という。)

大内町

右代表者市長

中條弘矩

右指定代理人

近藤兼夫

乙事件被告(以下「被告」という。)

奈良市

右代表者市長

大川靖則

右指定代理人

野田昌弘

右被告ら一六名指定代理人

都築政則

外五名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

別紙請求目録記載のとおり

第二  事案の概要

一  本件は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)に関する規定を自治大臣の定める告示に委任した地方税法三八八条一項が租税法律主義及び租税条例主義を定めた日本国憲法(以下「憲法」という。)八四条に、固定資産評価基準の内容が憲法二九条、二五条及び一四条に、宅地の評価を地価公示価格等の七割を目途とする旨定めた自治事務次官通達が憲法八四条及び固定資産税の課税標準となる固定資産の価格を適正な時価と定めた地方税法にそれぞれ違反するにもかかわらず、地方税法三八八条一項の規定を憲法に適合するよう改正せずにこれを放置した国会の行為(不作為)、固定資産評価基準の内容を憲法に適合するよう改正せずにこれを放置するとともに憲法及び地方税法に違反する内容の右通達を自治事務次官をして発遣せしめた自治大臣の行為、さらに、憲法に違反する固定資産評価基準並びに憲法及び地方税法に違反する右通達に従って原告らがそれぞれ所有する土地についての平成六年度の価格決定を行った被告各市町の長の行為などが、それぞれ国家賠償法一条一項に規定する違法行為に該当すると主張して、原告らが、被告らに対し、同条項による損害賠償請求権に基づき、別紙請求目録記載のとおりの金員及びこれに対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  関係法令の定め及び前提となる事実

1  当事者

原告らは、被告各市町において、別紙評価替え目録記載の各土地(以下、右各土地を合わせて「本件各土地」といい、また、本件各土地を、それぞれ対応する同目録の番号にあわせて、個別に、「本件土地1」「本件土地2」などという。)を所有(ただし、原告Dは二分の一、原告F(以下「F」という。)は二分の一、原告Iは五三万四四五〇分の七八〇、原告Kは五分の一、原告L(以下「原告L」という。)は三分の一、原告Qは一一分の七、原告Uは四分の三、原告Yは二分の一、原告A'は二分の一の持分の所有者である。)している(甲第一〇号証の3から8まで、甲第一三号証の4から9まで、甲第四五号証の1から4まで、甲第四八号証の1から4まで、甲第五〇号証の1から4まで、甲第五四号証の1から4まで、甲第五八号証の1から4まで、甲第六二号証の1、2、3の1、4の1、甲第六四号証の2から4まで、弁論の全趣旨)。

2  固定資産の評価の方法等

(一) 地方税法は、地方税法の定めるところによって道府県(なお、道府県に関する規定は都に準用される(地方税法一条二項)ことから、以下、「都道府県」という。)又は市町村(なお、市町村に関する規定は特別区に準用される(地方税法一条二項)。そこで、以下、市町村及び特別区を「市町村」といい、市町村長及び特別区長を「市町村長」という。)が地方税を賦課徴収することができること(地方税法二条、一条一項一号)及び市町村が普通税として固定資産税を課することを規定している(地方税法五条一項、二項二号)。

(二) 土地に対して課する固定資産税は、基準年度(地方税法三四一条六号)に係る賦課期日(なお、固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とされている(地方税法三五九条)。)における価格で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたものを課税標準としており(地方税法三四九条一項)、第二年度(地方税法三四一条七号)及び第三年度(地方税法三四一条八号)における課税標準も原則として基準年度の課税標準の基礎となった価格で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたものとされている(地方税法三四九条一項から三項まで・以下「据置制度」という。)。

ところで、固定資産税の課税標準となる固定資産の価格とは、適正な時価(地方税法三四一条五号)とされ、地方税法三八九条又は七四三条の規定によって道府県知事(なお、都の市町村及び特別区に対する地方税法の適用については道府県知事とあるのを都知事と読み替えられる(地方税法一条三項)ことから、以下、「都道府県知事」という。)又は自治大臣が固定資産の評価をする場合を除き、市町村長が固定資産の価格を決定しなければならず(地方税法四〇三条一項)、その際、市町村長は、自治大臣が定めて告示する固定資産評価基準によらなければならないとされている(地方税法四〇三条一項、三八八条一項)。そして、市町村長が固定資産の価格等を決定した場合においては、市町村長は、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳(土地課税台帳、土地補充課税台帳、家屋課税台帳、家屋補充課税台帳及び償却資産課税台帳の総称・地方税法三四一条九号)に登録しなければならず(地方税法四一一条一項・なお、第二年度又は第三年度において基準年度の土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準について基準年度の価格による場合にあっては、土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されている基準年度の価格をもって第二年度又は第三年度において土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録された価格とみなされる。)、右固定資産の価格の決定が固定資産評価基準によって行われていないと認められる場合においては、都道府県知事は、当該市町村長に対して、固定資産課税台帳に登録された価格を修正して登録するように勧告するものとされ(地方税法四一九条一項)、さらに、自治大臣は、右の場合においては、都道府県知事に対し、右勧告をするよう指示するものとされている(地方税法四二二条の二第一項)。

平成六年度は基準年度に当たり、市町村長によって、固定資産の価格の決定、いわゆる固定資産の評価替えが行われた(争いのない事実)。

(三) 固定資産税の税額は、固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格等に、各市町村の条例で定める税率を適用することによって算出される(地方税法三条一項)。なお、固定資産税の標準税率は一〇〇分の1.4とされている(地方税法三五〇条一項本文)。

3  本件通達の発遣

(一) 自治大臣は、地方税法三八八条一項の規定を受けて、昭和三八年一二月二五日付けで固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号)を告示し、昭和三九年度分の固定資産税から適用された(乙共通第二号証)。固定資産評価基準では、標準宅地の適正な時価は、宅地の売買実例価額から評定するものとされ、売買実例価額に正常と認められない条件がある場合にはこれを修正して売買宅地(売買が行われた宅地)の正常売買価格を求め、当該売買宅地と標準宅地の位置、利用上の便等の相違を考慮して、右正常売買価格から標準宅地の適正な時価を評定するとされている(乙共通第二号証)。

(二) また、自治事務次官は、同日付けで、各都道府県知事宛てに「固定資産評価基準の取扱いについて」と題する依命通達(昭和三八年一二月二五日自治乙固発第三〇号・以下「昭和三八年通達」という。)を発遣した(乙共通第一号証の2)。

(三) さらに、自治事務次官は、平成四年一月二二日付けで、昭和三八年通達の一部を改正し、宅地の評価に関して、地価公示法(昭和四四年法律第四九号)による地価公示価格、国土利用計画法施行令(昭和四九年政令第三八七号)による都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格(以下、これらを合わせて「地価公示価格等」という。)を活用することとし、これらの価格の一定割合(当分の間この割合を七割程度とする。)を目途とする旨の依命通達(平成四年一月二二日自治固第三号・以下「本件通達」という。)を発遣した(乙共通第一号証の1)。

4  固定資産評価基準による評価の方法

市街地宅地評価法の適用のある宅地(右評価法は主として市街地的形態を形成する地域における宅地に適用される。)の固定資産評価基準に基づく評価の方法は次のとおりである(乙共通第二号証)。

(一) 用途地区及び地域の区分

宅地の利用状況を基準として、商業地区、住宅地区、工業地区及び観光地区等に区分し、右区分された各地区について、さらに、街路の状況、公共施設等との接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等が概ね同等と認められる地域(以下「状況類似地域」という。)ごとに細区分する。

(二) 主要な街路及び標準宅地の選定

状況類似地域内の街路のうち、最も代表的で評価の拠点としてふさわしいものを主要な街路として選定し、さらに、主要な街路に沿接する宅地の中から、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められるものを標準宅地として選定する。

(三) 標準宅地の適正な時価の評定

標準宅地の適正な時価を宅地の売買実例価額から評定する。

(四) 主要な街路及びその他の街路の路線価の付設

標準宅地の単位地積当たりの適正な時価を算出し、その価格に基づいて当該沿接する主要な街路の路線価を付設し、さらに、主要な街路の路線価を基礎として、主要な街路以外の街路の路線価を付設する。

(五) 各宅地の評価

右(四)で付設した路線価に基づき、画地計算法(固定資産評価基準別表第三参照)を適用して各宅地の適正な時価を評定する。

5  地価公示価格と固定資産税評価額の乖離

地価公示価格は、一般の土地取引の指標とされていることから、取引を重視した評価が行われ、比較的売買実例価額に近い水準にある(甲第三一号証・五頁)。そのため、いわゆるバブル経済による地価の高騰によって、全国的に地価公示価格は大きく上昇し、地価公示価格と固定資産税評価額が乖離していった。かかる状況下において、一部から、公的土地評価の均衡化を求める声があがるようになった(証人堤新二郎(以下「証人堤」という。)の証言)。

6  公的土地評価相互間の均衡化への動き(本件通達発遣に至る経緯)

平成元年一二月二二日に成立した土地基本法では、国は、適正な地価の形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるように努めるものとする(土地基本法一六条)との規定がおかれ、内閣総理大臣より土地基本法を踏まえた今後の土地政策のあり方についての諮問を受けて検討を開始した土地政策審議会が平成二年一〇月二九日に内閣総理大臣に対して行った答申では、「地価公示、相続税評価及び固定資産税評価の公的土地評価については、相互の均衡と適正化を図るべきであり、その際、国民が理解しうるよう明確かつ具体的に推進する必要がある」と指摘された(乙共通第四、五号証)。また、右土地政策審議会の答申を踏まえて平成三年一月二五日に閣議決定された総合土地政策推進要綱では、「固定資産税評価について、平成六年度以降の評価替えにおいて、土地基本法第一六条の規定の趣旨を踏まえ、相続税評価との均衡にも配慮しつつ、速やかに、地価公示価格の一定割合を目標に、その均衡化・適正化を推進する。」とされた(乙共通第五号証、乙共通第一四号証、証人堤の証言)。

その後、財団法人資産評価システム研究センター(以下「システム研究センター」という。)が、土地評価の均衡化、適正化等に関する調査研究を開始し、平成三年一一月ころ、右調査研究に関する報告書(甲第三一号証・以下「センター報告書」という。)を公表したが、そこでは、地価が当面全国的に安定していることを前提に、地価公示価格の七割の水準を目途に平成六年度の評価替えを行うことが妥当であるとの結論を出し、かかる報告等を受けて、平成三年一一月一四日、自治大臣の諮問機関である中央固定資産評価審議会(地方税法三八八条の二参照)において、平成六年度の固定資産税評価額の評価替えについて、地価公示価格の一定割合を目標に評価の均衡化、適正化を図ること、右一定割合の具体的数値として、固定資産税の性格と地価公示制度の趣旨との差異及び昭和五〇年代の地価安定期における地価公示価格に対する固定資産税評価の割合等からこれを七割程度とすること、右具体的数値は依命通達等の改正によって明示すること並びに税負担の増加が急激なものにならないよう総合的かつ適切な調整措置を講ずること等が基本方針として了承された(乙共通第六号証、乙共通第一四号証、証人堤の証言)。

そして、右中央固定資産評価審議会の了承を受けて、平成四年一月二二日、本件通達が発遣された(乙共通第一号証の1、証人堤の証言)。

7  評価時点の修正

その後、地価の下落傾向に鑑み、中央固定資産評価審議会において、平成六年度の評価替えに当たっては、平成五年一月一日時点における地価動向も勘案して地価変動に伴う修正を行うことが了承され、平成四年一一月二六日付け「平成六年度評価替え(土地)に伴う取扱いについて」と題する自治省税務局資産評価室長通達(自治評第二八号)により、各都道府県総務部長及び東京都主税局長に対し、右了承事項のとおり、管下市町村を指導するよう要請された(乙共通第一四号証、乙共通第一五号証)。これにより、平成六年度の評価替えについては、平成四年七月一日を基準としつつ、平成五年一月一日における地価動向を勘案して修正を行った後の地価公示価格等の七割程度を目標とすることとされ、実際に、平成五年一月一日以降の時点修正は行われなかったものの、平成四年七月一日時点における地価公示価格等を求めた上で、これらの価格に平成五年一月一日までの地価下落の変動率を乗じた価格の七割を目途として実施された(乙共通第一四号証、証人堤の証言、弁論の全趣旨)。

8  平成六年度の評価替えに伴う課税標準の特例措置等

宅地の評価を地価公示価格等の七割程度とすることに伴って、宅地の固定資産税額の大幅な上昇を抑えるため(乙共通第一四号証、証人堤の証言)、次のとおりの固定資産税負担の調整措置を盛り込んだ地方税法等の一部を改正する法律(平成五年法律第四号)が成立した。すなわち、従来、住宅用地(専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋で政令で定めるものの敷地の用に供されている土地で政令で定めるもの(ただし、三四九条の三の適用を受けているものを除く。)・以下同じ)に対して課する固定資産税の課税標準は当該住宅用地に係る固定資産税の課税標準となるべき価格の二分の一の額を課税標準としていたのを三分の一の額とし(地方税法三四九条の三の二第一項)、さらに、住宅用地でその面積が二〇〇平方メートル以下のもの等については当該住宅用地に係る固定資産税の課税標準となるべき価格の四分の一の額を課税標準としていたものを六分の一の額とされた(地方税法三四九条の三の二第二項)。また、宅地評価土地(宅地及び宅地比準土地(宅地以外の土地で当該土地に対して課する当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格が、当該土地とその状況が類似する宅地の固定資産税の課税標準とされる価格に比準する価格によって決定されたものをいう。))については、その課税標準について、平成六年度から平成八年度までの各年度分の固定資産税に限り、暫定的な特例措置を創設し、課税標準額の上昇割合に応じて、課税標準額を四分の三、三分の二又は二分の一とし(地方税法附則一七条の二第一項)、さらに、宅地等に係る平成六年度から平成八年度までの各年度の固定資産税額については、前年度の課税標準額を基準に一定の負担調整率を乗じて得られた課税標準額に基づく固定資産税額を限度額とされた(地方税法附則一八条一項)。

9  さらなる地価の下落に対応するための特例措置等

さらに、平成七年度分及び平成八年度分の二年分の固定資産税に限る措置として、また、平成八年度分の固定資産税に限る措置として、種々の特例措置が設けられた(地方税法附則一七条の二第三項、一八条三項、同条四項参照)。

10  本件評価替え

被告各市町の長は、本件各土地に関する平成六年度の固定資産の評価額について、平成六年三月末ころまでに、別紙評価替え目録平成六年度固定資産税評価額欄記載のとおりとする価格決定(以下「本件評価替え」という。)を行い(なお、本件土地31については、平成六年四月六日、西脇市長によって、平成六年度の価格決定が行われた。)、本件評価替えに基づき課税標準額が算出され、原告らに対して、平成六年度の固定資産税の賦課決定が行われた(争いのない事実、甲第一〇号証の3、7、甲第一三号証の4、6、甲第四五号証の2、甲第四八号証の2、甲第五〇号証の2、甲第五一号証の2、甲第五四号証の2、甲第五八号証の2、甲第六二号証の2、甲第六四号証の1、2、甲第六五号証の2、甲第六六号証の2、弁論の全趣旨)。

第三  争点

1  固定資産評価基準及び本件通達が、租税法律主義及び租税条例主義を定めた憲法八四条に違反するのか否か。

2  固定資産評価基準の内容が憲法二九条、二五条及び一四条に違反するのか否か。

3  本件通達が地方税法にいう適正な時価の解釈を誤った違法な通達であるのか否か(地方税法違反その一)。

4  原告B(以下「原告B」という。)、原告C(以下「原告C」という。)、原告E(以下「原告E」という。)、原告F及び原告L(以下、右原告らを合わせて「原告ら五名」という。)がそれぞれ所有する本件土地2、本件土地3、本件土地5、本件土地6及び本件土地12(以下、右各土地を合わせて「原告ら五名所有土地」という。)に関する本件評価替えが、地方税法にいう適正な時価を上回る違法な評価替えであるのか否か(地方税法違反その二、その三)。

5  仮に右1から4までにおいて違憲又は違法と評価される点があったとして、国会、自治大臣又は被告各市町の長の行為が、国家賠償法上の違法行為と評価されるのか否か。

6  損害額

第四  争点に関する当事者の主張

一  原告らの主張

1  争点1について

(一) 固定資産評価基準を告示に委ねる地方税法三八八条一項は、租税法律主義及び租税条例主義を定めた憲法八四条に違反する。

(1) 憲法八四条は、新たに租税を課し、又は現行の租税を変更するには法律又は法律の定める条件によることを必要としており、さらに、地方公共団体は地方自治の本旨に基づく独自の課税権を憲法上保証され、条例制定権を有する(地方税法三条)のであるから、地方税の課税要件(納税義務者、課税物件、課税標準、税率等)は法律又は条例により定められるべきものである(租税法律主義、租税条例主義)。特に、固定資産税は評価額課税であって、その価格を決定する評価基準は課税要件そのものである。

しかるに、地方税法三四一条は、価格とは「適正な時価をいう。」とのみ定め、地方税法三八八条一項は固定資産の評価の基準等をすべて自治大臣の定める告示に委ねており、仮に告示への委任が認められるとしても、地方税法三八八条一項は包括的一般的に委任しており、租税法律主義及び租税条例主義を定めた憲法八四条に違反する。

(2) また、固定資産評価基準の内容を告示へ委任する合理的理由も存在しない。すなわち、一般に立法の委任が認められる場合として、立法内容が複雑で専門的技術的な内容が多い場合、情勢の変遷に即応して容易に改廃を行う必要がある場合、さらには地方の実情等に応じて適切な定めをする必要がある場合等があげられる。

しかし、少なくとも固定資産の評価の基準の大枠について法律で定めることは憲法の要請であり、固定資産の評価の基準は必要不可欠な法律事項である。また、固定資産評価基準は情勢の変遷に即応して容易に改廃を行う必要がある事項ではなく立法の委任をしなければならない理由は存せず、さらに、固定資産税は地方税であるから、固定資産の評価に当たって地方の実情等に応じて適切な定めをする必要があるが、それは課税権を持つ地方自治体の条例によって定められるべきものであり、自治大臣の定める告示等に委任すべきものではない。

右のとおり、固定資産評価基準の内容を自治大臣の定める告示に委任すべき合理的理由は存在しないにもかかわらず、右委任をした地方税法三八八条一項は憲法に違反する。

(二) 固定資産の評価の基準の内容を告示からさらに依命通達である本件通達に委任することは、依命通達の法形式から見て租税法律主義を定めた憲法八四条に違反する。

通達は、上級行政機関が下級行政機関及び職員に対して、その職務権限の行使を指揮し、職務に関して発する命令であり、単なる事実の通知のほか、細目の運用方針、法令の解釈等に関する示達事項を内容とし、原則として行政機関のみを拘束し、直接国民を拘束するものではない。このような法規性をもたない通達に固定資産の評価の基準の内容を再委任することは憲法の認めるところではなく、租税法律主義を定めた憲法八四条に違反する。

(三) 仮に、本件通達が市町村を法的に拘束するものであれば、本件通達は地方自治体の自主的な課税権を侵害し、憲法に違反する。

従来、各市町村は、地方税法にいう適正な時価を評定する過程において、不正常要素を除去していたが、当然のことながら、各市町村において、その地域の実情に応じて不正常要素の割合が異なっていた。しかるに、本件通達は、「宅地の評価にあたっては、地価公示法による地価公示価格、国土利用計画法施行令による都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格を活用することとし、これらの価格の一定割合(当分の間この割合を七割程度とする。)を目途とする」として、右合理的な調整を一切排除し、一律に地価公示価格の七割をもって適正な時価とした。これは、法律において定められるべきことを通達によって市町村ごとの合理的な調整をも否定し、従来の取扱いを何ら合理的理由もなく増税の方向に改変するものであり、かかる通達に市町村が法的に拘束されるのであれば、それは地方自治体の自主的な課税権を侵害し、憲法に違反する。

(四) 本件通達の発遣は、通達によって固定資産評価基準の内容を改変するものであり、租税法律主義及び租税条例主義を定めた憲法八四条に違反する。

固定資産税は評価額課税であるから、固定資産の評価の基準の変更は課税要件そのものの変更であり、新たな課税を行うに等しい。しかるに、本件通達は、新たに、宅地の固定資産評価額を公示価額の七割を目途とすると具体的数値をもって定めたものであり、もはや、本件通達は告示の内容を補足的に説明するものとは到底いえず、通達それ自体によって固定資産の評価額を定めるに等しく、租税法律主義及び租税条例主義を定めた憲法八四条に違反する

2  争点2について

(一) 固定資産評価基準の内容は、憲法二九条及び二五条に違反する。

現行の固定資産評価基準は、土地の評価方法について、一律に売買実例を基準とする評価方式を採用している。

ところで、憲法二九条一項は財産権の保障を定めている。右規定は、個別的な財産及び私有財産制度という客観的な法制度を保障しているといわれているが、個別的な財産権の保障といっても現代資本主義における財産権の機能や偏在という実態及び憲法の予定する人権保障という観点から考えたとき、憲法二五条の趣旨をも加味して、人間の生存に不可欠の「人権としての財産権」と資本主義制度を支える「人権でない財産権」を区別して考えるべきであり、憲法二九条一項で保障された財産権の中核的な内容は、生存権的な財産権であると解されるのであり、財産権の保障のあり方や公共の福祉による制限のあり方についても、生存権的財産権とそうでない財産権とを区別して考えるべきである。

これを土地に対する課税についていえば、当該土地所有の目的や利用形態から見て、住居に代表されるように国民が日常生活を営むについて不可欠の土地(生存権的土地)とそうでない土地(非生存的土地)とを区別し、前者については生存権的土地であることを前提として、いわゆる収益還元方式によって評価をした上で課税することが憲法二九条及び二五条の要請であるということができる。

しかるに、固定資産評価基準は、右両者を区別することなく、近隣土地価格の高騰によって当該土地の所有者に売買の必要も売買の意思も存しない場合においても固定資産の評価額及び課税標準額が引き上げられる売買実例を基準とする評価方式を一律に採用しており、特に保障を要する生存権的土地に対する課税方法として、憲法二九条及び二五条に違反する。

財産権を生存権的土地と非生存的土地とに区別することは容易ではないとの指摘もあるが、原告ら所有地のように典型的な生存権的土地の場合、すなわち、生存に必要な居住用、生業用財産の場合には限界事例ではないため、その区別が困難ということはできない。

なお、被告らは、固定資産税の具体的内容を法律においていかなる内容に定めるかは立法政策の問題であり、個別個人に課せられる税額は評価方法のみならず税率等における特例措置による結果と併せて評価すべきもので、立法政策全体が著しく不合理である場合にはじめて義務違反が問題となるにすぎないと主張するが、原告らが主張する生存権的土地の評価の方法は、憲法の要請に適合するように決められるべきであり、固定資産税における「適正な時価」の概念にもこのことが要請されているのである。そして、固定資産税評価額は不動産取得税や登録免許税の基準とされ、また、公的な機関の手数料の基準ともされる等国民生活の上で重大な影響を与える諸々の指針とされていることから、被告らの主張するように評価額だけでなく、各種の負担調整措置を講じた上で算出された税額で不合理かどうかを決するという考え方はまったく不十分であり、評価方法の段階において憲法に違反する不合理があれば、負担調整措置等が採られていても、結果として違憲、違法の評価を受けるべきものである。

(二) 固定資産評価基準の内容は、応能負担の原則を定めた憲法一四条に違反する。

平等原則を定めた憲法一四条は、応能負担の原則をも包含しているところ、生存権的土地についても非生存権的土地と同様に売買実例価格を基準として土地の評価を決定することは著しく不合理であり公平を欠く。すなわち、現行の固定資産評価基準に基づく売買実例を基準とした一律の評価、課税方式が徴税の便宜に資するものとしても、憲法上の人権である国民の生存権的財産権の制限を内容とする立法の当否を判断するに当たっては、徴税の便宜のみを理由として現行方式を合理的とすることは許されないのであり、固定資産評価基準は応能負担の原則、各財産に対する質的担税力を無視し、著しく不平等な結果をもたらすのであり、憲法一四条に違反する。

3  争点3について(地方税法違反その一)

(一) 固定資産税は、ある土地の上に住むとき、また、事業を営むときにその土地の所有者として受ける各種の行政サービスの便益に対して支払う応益課税であり、固定資産税の税額は原告らが当該年度に課税庁から受ける行政サービスの便益の大きさに応じて決まるものであって、固定資産税は土地が生み出す課税年度の収益の中から支払うことが予定されているものである。したがって、土地に対する固定資産税は土地が生み出す課税年度の収益に応じた収益還元価格を基礎にしてその税額を決すべきであり、地方税法にいう適正な時価とは、それぞれの土地の種類、用途に応じた収益に対応した課税年度の収益還元価格というべきである。このように、本来売却することを予定しない保有税としての固定資産税の評価において売買実例方式を持ち込むこと自体に問題がある。

(二) ところで、本件通達は、固定資産評価額を公示価格の七割に固定するものである。しかし、次のとおり、固定資産評価額を公示価格の七割とすることには何らの合理性は認められない。すなわち、

(1) そもそも、七割という数字は、大蔵省主導による地価税構想に縄張りを荒らされるとの危機感を抱いた自治省が、地価税を固定資産税に取り込むためにそれにふさわしいような高額な評価基準としてセンター報告書が出される以前から持ち出していた数字であり、そもそも合理性があり得るものではない。

(2) また、被告らは、公示価格の七割とする根拠について、センター報告書において、地価公示価格の七割の水準を目途に平成六年度の評価替えを行うことが妥当であるとされていることを挙げるが、そもそも右報告書は地価の安定を前提としているところ、実際には平成三年一月ころから地価公示価格は下落傾向にあったから、その前提を欠くものであるし、右報告書が地価公示価格の七割とする根拠についてはいずれも合理的理由がない。

(三) 右のとおりであり、地方税法にいう適正な時価とは収益還元価格を基準にして土地の種類、用途、地方の実情に応じて決定されるべきであるにもかかわらず、本件通達は固定資産税評価額を地価公示価格の一律七割に固定しており、また、地価公示価格の七割とする根拠も認められず、本件通達は地方税法にいう適正な時価の解釈を誤った違法な通達である。

4  争点4について

(一) 地方税法違反その二

(1) 仮に地方税法にいう適正な時価が地価公示価格の七割であると考えた場合、原告ら五名所有土地に関する評価額はいずれも地価公示価格の七割を上回っており、原告ら五名所有土地に関する本件評価替えは違法である。すなわち、本件評価替えに当たっては、平成四年七月一日を価格調査基準日としつつ、平成五年一月一日までの地価下落に配慮して価格修正を行うものとされたものの、平成五年一月一日における地価公示価格の七割をもって、固定資産の評価額とされた。しかし、地方税法の要求は賦課期日における評価である以上、本件評価替えにおける適正な時価とは平成六年一月一日の時点における地価公示価格の七割である。そして、平成五年から平成六年にかけては地価は下落しており、平成五年一月一日における地価公示価格の七割をもって賦課期日である平成六年一月一日における評価額とすると、右評価額は平成六年一月一日における地価公示価格の七割、すなわち適正な時価を必ず上回ることとなり、結局、原告ら五名に関する本件評価替えは違法である。

(2) なお、確かに固定資産の評価替えに当たっては大量の事務作業が必要であるという技術上の理由から賦課期日のほかに価格調査基準日を別に定める必要があるかもしれないが、評価の基準日自体はあくまでも地方税法において賦課期日と定められており、仮に価格調査基準日を設定するにしても、地価の下落傾向がはっきりしている場合には地価の下落を見据えた方法で評価額を決しなければならないのであり、また、地価の下落を見据えた方法により評価額を決することは現実に可能であって、右価格調査基準日における価格をもって賦課期日における価格ということはできない。

(3) また、地方税法は、評価額の三年間の据置き(据置制度)を設けているが、これは土地が下落することはないという社会的背景を前提として、基準年度における評価額を確定しておけば二年度及び三年度において基準年度の評価額を前提にしても当該賦課年度における適正な時価が評価額を上回ることはないことから、評価手続の煩雑を考慮して定められたものにすぎない。しかし、固定資産税は課税年度における土地の収益から支払われるものであり、また、実際、償却資産については据置制度が設けられておらず、年々その賦課期日における当該償却資産の価格を課税標準としているのであるから、土地についても、本来、課税年度における土地の価格が基準とされなければならず、地方税法にいう適正な時価は当該賦課年度における適正な価格をいうものであって、据置制度を採用している土地の評価に関しては、基準年度である平成六年度のみならず、平成七年度及び平成八年度における地価の動向をも勘案して評価すべきであり、平成七年度及び平成八年度との関係においてもその適正な時価を上回ってはならない。しかるに、原告ら五名に関する本件評価替えは、右点を看過しており、実際に、平成七年度及び平成八年度においては、地価はさらに下落していたのであるから、平成七年度及び平成八年度との関係においても、原告ら五名に関する本件評価替えは、地方税法にいう適正な時価に反し違法である。

(二) 地方税法違反その三

仮に地方税法にいう適正な時価が地価公示価格(取引価格)であると考えた場合、原告ら五名所有土地に関する評価額はいずれも地価公示価格を上回っており、原告ら五名所有土地に関する本件評価替えは違法である。すなわち、前記のとおり、平成六年度の評価替えについても賦課期日の一年六箇月前である平成四年七月一日を価格調査基準日として評価し、さらに、地価の下落傾向を考慮して平成五年一月一日時点における時価動向を勘案して右時点における地価変動に伴う修正を加えることとされた。しかし、地価の下落により、平成五年一月一日の時点における地価公示価格の七割をもって評価される固定資産税評価額が、平成六年一月一日における地価公示価格を上回るといういわゆる逆転現象が多発し、原告ら五名が居住する大阪市内についても、標準宅地の平成六年度における地価公示価格が前年度の地価公示価格より三割以上下落したものが相当数存在するのであり、また、平成七年度及び平成八年度は平成六年度以上に地価は下落していたのであるから、原告ら五名に関する本件評価替えは、平成七年度及び平成八年度との関係において、地方税法にいう適正な時価に反し違法である。

5  争点5について

(一)(1) 固定資産評価基準の内容を自治大臣の定める告示又は依命通達に委ねた地方税法三八八条一項が憲法に違反する点に関して

ア 国会の義務違反

固定資産評価基準の内容をすべて自治大臣の定める告示又は依命通達に委ねる地方税法三八八条一項は憲法八四条に違反するのであるから、国会としては、遅くとも本件通達を発遣するまでの時期に審議を行った上、違憲状態を解消すべき義務を負っていた。しかるに国会は、右の明白な違憲状態を解消することなく三〇年以上も漫然とこれを放置しているのであって、国会の右不作為は、職務上の義務に反する行為であり、国家賠償法上の違法行為に当たる。

イ 被告各市町の長の義務違反

被告各市町の長は、漫然と違憲性を有する評価システムに従って本件評価替えを行っており、被告各市町の長の行為は、被告各市町の長の職務上の注意義務に反する行為であり、国家賠償法上の違法行為に当たる。

(2) 本件通達の発遣が地方自治体の自主的な課税権を侵害し、憲法に違反する点に関して

ア 自治大臣の義務違反

固定資産税は市町村税であり、その課税権は市町村にあるのであるから、固定資産税評価額は、各市町村の地域性等を考慮して各市町村において政策的・合理的に調整されることが地方自治の本旨からして当然に予定されている。しかるに、本件通達は、宅地の評価を地価公示価格等の七割程度を目途とすることとした上で、固定資産評価基準と一体となって市町村を拘束するとして、市町村の独自の課税権を侵害しているのであり、かかる本件通達の発遣、自治事務次官をして通達を発遣させるに当たって憲法に反することのないよう特に慎重かつ適正に発遣させるべき自治大臣の職務上の注意義務に反する行為であって、国家賠償法上の違法行為に該当する。

イ 被告各市町の長の義務違反

被告各市町の長は、被告各市町の課税権を侵害し、憲法に違反する本件通達に合理性があるものとして、漫然と本件通達にしたがい本件評価替えを行ったのであり、かかる被告各市町の長の行為は、本件評価替えを行うに当たって憲法及び地方税法に違反することのないよう特に慎重かつ適正に行うべき被告各市町の長の職務上の注意義務に反する行為であり、国家賠償法上の違法行為に該当する。

(3) 固定資産評価基準の内容を通達によって改変する本件通達が憲法に違反する点に関して

ア 自治大臣の義務違反

自治大臣は、租税法律主義を定めた憲法八四条に違反して課税要件に該当する固定資産の評価の基準を通達によって改変する本件通達を自治事務次官をして発遣せしめているのであって、かかる自治大臣の行為は、通達を制定、発遣するに当たって憲法に違反することのないよう特に慎重かつ適正に制定、発遣すべき自治大臣の職務上の注意義務に反する行為であり、国家賠償法上の違法行為に該当する。

イ 被告各市町の長の義務違反

被告各市町の長は、憲法八四条に違反する本件通達に合理性があるものとして、漫然と本件通達にしたがい本件評価替えを行っており、かかる被告各市町の長の行為は、本件評価替えを行うに当たって憲法及び地方税法に違反することのないよう特に慎重かつ適正に行うべき被告各市町の長の職務上の注意義務に反する行為であり、国家賠償法上の違法行為に該当する。

(二) 固定資産評価基準の内容が憲法二五条、二九条及び一四条に違反する点に関して

自治大臣の義務違反

土地の評価に当たって、一律に売買実例方式を採用する固定資産評価基準は、憲法二五条、二九条及び一四条に違反するところ、異常な地価高騰及びその後の急落という状況下において、平成四年一月二二日に本件通達を発遣することによって土地の固定資産評価を地価公示価格の七割で評価するならば、土地の評価額が急激に上昇して違法な事態が生じることは容易に予見でき、又は予見すべきであったのであるから、自治大臣は、遅くとも右平成四年一月二二日までに、固定資産評価基準を改正して生存権的土地については売買実例方式をやめ、固定資産評価基準の内容を憲法に適合させるべき職務上の注意義務を負っていたにもかかわらず、自治大臣は漫然とこれを放置したのであり、自治大臣の右不作為は国家賠償法上の違法行為に該当する。

(三) 地方税法違反その一に関して

(1) 自治大臣の義務違反

自治大臣は、地価公示価格の七割という基準には何ら合理性がなく、恣意的に定められた数字であることや、地方税法にいう適正な時価を算定するに当たり、固定資産税評価額の地価公示価格に対する割合は全国一律には考えられず、実際に全国の自治体ごとにその割合は千差万別であることを知っていたものであり、したがって、自治大臣としては、全国一律に固定資産税評価額を地価公示価格の七割に統一することが地方税法にいう適正な時価を定めた基準とはいえないことを認識し、又は認識すべきであった。しかるに、自治大臣は、敢えて自治事務次官をして本件通達を発遣せしめたのであり、自治大臣の右行為は、通達の制定、発遣に当たって地方税法にいう適正な時価の適正な解釈と執行を確保すべき職務上の注意義務に反する行為であり、国家賠償法上の違法行為に該当する。

(2) 被告各市町の長の義務違反

被告各市町の長は、実際にそれまでの固定資産税評価額は地価公示価格の七割には遠く及ばない数字であることや、固定資産税評価額の地価公示価格に対する割合は全国一律に考えるべきものではなく、実際に、全国の自治体ごとにその割合は千差万別であることを知っていたのであり、したがって、本件通達で定められた地価公示価格の七割という数字には、何ら合理性がなく、恣意的に定められたものにすぎず、本件通達が地方税法にいう適正な時価の適正な解釈基準とはなっていないことを認識し、又は認識すべきであった。また、本件通達は、そもそも被告各市町の長を法的に拘束するものではなかった。しかるに、被告各市町の長は、漫然と本件通達に従った固定資産の評価をしており、かかる被告各市町の長の行為は、地方税法にいう適正な時価に基づき、固定資産の価格の決定を慎重かつ適正に行うべき被告各市町の長の職務上の注意義務に反する行為であり、国家賠償法上の違法行為に該当する。

(四) 地方税法違反その二に関して

(1) 自治大臣の義務違反

本件通達が発遣された時点はいわゆるバブル経済が崩壊し、急激な地価下落が生じていた時期であったのであるから、被告らの主張する価格調査基準日における地価公示価格の七割をもって賦課期日における固定資産の価格とした場合、賦課期日における適正な価格である地価公示価格の七割を大幅に上回り、地方税法に違反する固定資産の評価となることは明らかであった。しかるに、自治大臣は、本件通達によって価格調査基準日における地価公示価格の七割をもって固定資産税評価額としたのであり、自治大臣の右行為は、国家賠償法上の違法行為に該当する。

また、地方税法の要求は賦課期日における評価である以上、価格調査基準日における評価額をもって賦課期日における評価額たらしめること自体、地方税法に違反する行為であり、国家賠償法上の違法行為に該当する。

(2) 被告各市町の長の義務違反

右のとおり、価格調査基準日における地価公示価格の七割をもって賦課期日における固定資産税評価額とした場合、賦課期日における適正な価格である地価公示価格の七割を大幅に上回り、地方税法に違反する固定資産の評価となることは明らかであったから、被告各市町の長は、本件通達に従った場合には地方税法に違反することを認識し、又は認識すべきであった。しかるに、被告各市町の長は、漫然と本件通達に従った固定資産の評価をしており、被告各市町の長の右行為は、国家賠償法上の違法行為に該当する。

(五) 地方税法違反その三に関して

(1) 自治大臣の義務違反

前記のとおり、地方税法にいう適正な時価とは価格調査基準日における価格ではなく、賦課期日における価格であるにもかかわらず、自治大臣は、自治事務次官に本件通達を発遣せしめて、最終的に固定資産税評価額を平成五年一月一日の時点における地価公示価格の七割程度とすることとして、固定資産の評価を大幅に引き上げ、しかも、その後の地価の下落に対応して固定資産の評価の時点を是正しようと思えば技術的にも十分可能であったにもかかわらず、何らの是正措置をしなかったことにより、賦課期日における客観的時価である地価公示価格、すなわち地方税法にいう適正な時価を固定資産税評価額が上回るといういわゆる逆転現象を招来せしめたものであり、自治大臣の右行為は、国家賠償法上の違法行為に該当する。

(2) 被告各市町の長の義務違反

右のとおり、本件通達に従って価格調査基準日である平成五年一月一日における地価公示価格の七割をもって賦課期日である平成六年一月一日における固定資産税評価額とした場合には、固定資産税評価額が時価(地価公示価格)を上回り、さらにその後三年間評価額が固定されればさらに大幅な逆転現象が発生し、固定資産税評価額が地方税法にいう適正な時価を上回ることは明らかであったところ、被告各市町の長もかかる事態を認識し、又は認識すべきであった。しかるに、被告各市町の長は、漫然と本件通達に従った固定資産の評価をしており、被告各市町の長の右行為は、国家賠償法上の違法行為に該当する。

(六) なお、国会、自治大臣及び被告各市町の長の右違法行為は共同不法行為を構成する。すなわち、

(1) 国会と被告各市町の長の各行為又は自治大臣と被告各市町の長の各行為は、本件評価替え及びこれに基づく課税処分という目的に向けられた一連の行為であって、これらの行為は客観的に関連共同している。

(2) 特に、自治大臣が自治事務次官に本件通達を制定、発遣せしめる行為と被告各市町の長の本件評価替えは、固定資産の評価の引上げに反対する等の地方議会における議論を考慮することなく、いずれも本件通達に従って課税処分をすることに固執したものであり、さらに、本件通達の内容についての照会と回答を通じ、あるいは被告国の意思を地方自治体に強制する等により、被告各市町の長は本件通達に従って本件評価替えを行い、被告各市町は本件評価替えに基づいて課税処分を行っているのであるから、主観的関連共同も存在する。

以上のとおりであり、国会と被告各市町の長の各行為又は自治大臣と被告各市町の長の各行為は、共同不法行為を構成する。

6  争点6について

(一) 争点1及び2の主張に対応する損害

あるべき固定資産税評価額に基づいて算出された税額と平成六年度の固定資産税評価額に基づいて算出された税額の差額が損害となるが、あるべき固定資産税評価額が平成五年度の固定資産評価額を下回ることは明らかであることから、損害の一部として、平成五年度の固定資産税評価額に基づいて算出された税額と平成六年度の固定資産評価額に基づいて算出された税額の差額の支払を求める。具体的には別表1の損失額合計欄(持分の所有者については、別表1の2の損失額合計欄)記載のとおりである。

(二) 争点3(地方税法違反(その一))の主張に対応する損害

本件通達は地方税法に違反し無効であることから、本件通達に従った平成六年度の評価替え及びこれに伴う各種措置は効力を失い、平成五年以前の方法によることとなる。したがって、平成五年度の固定資産税評価額に基づいて算出された税額と平成六年度の固定資産税評価額に基づいて算出された税額の差額が損害であり、右金員の支払を求める。具体的には別表1の損失額合計欄(持分の所有者については、別表1の2の損失額合計欄)記載のとおりである。

(三) 争点4(一)(地方税法違反(その二))の主張に対応する損害

平成六年一月一日の時点における地価公示価格の七割を固定資産税評価額として算出された税額と平成六年度の固定資産税評価額に基づいて算出された税額との差額が損害であり、右金員の支払を求める。具体的には別表2の損害額欄又は差引損害欄記載のとおりである。

(四) 争点4(二)(地方税法違反(その三))の主張に対応する損害

平成六年一月一日の時点における客観的時価を固定資産税評価額として算出された税額と平成六年度の固定資産税評価額に基づいて算出された税額との差額が損害であり、右金員の支払を求める。具体的には別表3の差引損害額欄記載のとおりである。

(五) 弁護士費用

本件国家賠償法上の不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用は、原告らそれぞれにつき三万円を下らない。

二  被告らの主張

1  争点1について

(一) 租税法律主義は、法律という形式なくしては、行政機関は国民から税金を賦課徴収してはならないことを本質的内容とするものであり、租税の種類、根拠を法律で定めることはもとより、賦課要件(納税義務者、課税物件、課税標準、税率等)徴収手続を原則として法律で定めることを要求している。しかし、租税法が対象とする経済事象は多種多様であり、しかも常に激しく変遷していくから、法律をもって完全にこれに対応することは困難である。また、課税の公平を実現するためにも、具体的な定めを命令に委任し、実際に対応していく必要があることは否定できない。したがって、課税上重要な事項は法律の形式で定めることが要求されるが、憲法上、具体的、個別的に命令にその細目を委任することは許容されるというべきであるところ、地方税法三四九条一項は、固定資産税の課税標準を基準年度の価格とし、地方税法三四一条五号はその価格を適正な時価とした上で、地方税法三八八条一項は、その適正な時価を評価するための細目の定めを行うことを個別的、具体的に自治大臣の告示に委任したものであり、地方税法三八八条一項の規定は何ら憲法に違反するものではない。

(二) 本件通達は、後記主張のとおり、固定資産評価基準に定められた正常売買価格の評価について一つの解釈指針を示したものであって、新たな課税要件を定めたものでなく、むしろ、地方税法の定める適正な時価を実現するものであるから、本件通達の発遣が租税法律主義に反するということはできない。

(三)(1) 都道府県知事が市町村長に対して固定資産評価基準について指導すること(地方税法四〇一条一号)及び都道府県知事が市町村における固定資産の価格の決定が固定資産評価基準によって行われていないと認める場合に当該市町村長に対し修正の勧告を行うこと(地方税法四一九条一項)は、いずれも国の機関委任事務である。そして、地方自治法一五〇条は、国の機関として処理する行政事務については、都道府県にあっては主務大臣の指揮監督を受ける旨規定しているところ、一般に指揮とは、ある者が他の者に対してその職務執行の方針、基準、手続等を命令し、これに従わしめる作用をいい、監督とは、ある者が他の者の行為について、その行為が遵守すべき義務に違反することがないかどうか、又はその行為にその職務の達成上不適当なことがないかどうかを監視し、必要に応じ命令等の措置を採る作用をいい、主務大臣によってされた指揮監督上の命令に対して都道府県知事はこれに服することを要するとされている。以上のとおりであり、右のような指揮監督権行使の方法として都道府県知事に対し発遣された本件通達は都道府県知事を法的に拘束する効力を有する。特に本件通達のような課税の公平のために固定資産評価基準の解釈を統一するために発せられた通達は、その名宛人である都道府県知事を法的に拘束するのでなければその目的を達することができないものである。

(2) そして、固定資産の評価において、全国的な統一を図り、市町村間の均衡を維持する観点から、地方税法及び地方自治法は、自治大臣が都道府県知事に対する指揮監督を通じて、市町村長に対し、固定資産の評価が固定資産評価基準によって行われるように指導し、市町村における固定資産の価格の決定が固定資産評価基準によって行われていないと認める場合に、当該市町村長に対し価格の修正の勧告を行うものとしているのであり、本件通達の内容が固定資産評価基準の解釈として合理性を有するものであることなどの点を考慮すれば、市町村長は固定資産の平成六年度評価替えにおいて本件通達に沿った評価を行うべきであった。

(四) 固定資産評価基準は、評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続について基本的な事項を定めたものであるが、実際の評価においては、その内容をより明確にする必要がある。また、そうすることによって初めて固定資産評価基準の統一的な運用が可能となり、租税負担の公平が確保される。このため、従前より、依命通達によって、必要に応じて固定資産評価基準の運用に際しての必要事項を示し、解釈運用の指針としてきたが、本件通達は、売買実例価額から不正常要素を排除した正常売買価格の求め方について、地価公示価額の七割程度という形で具体的な定量を示すことで、より明確かつ具体的に適正な時価を求める判断基準を示したものである。換言すれば、本件通達は、売買実例価額から適正な時価を評定するという固定資産評価基準の基本的な考え方を改めたものではなく、固定資産評価基準との関係においてはその解釈基準としての意味を有するに止まり、内容的には地方税法三八八条の趣旨により合致しているものである。

以上のとおり、本件通達は、固定資産評価基準に定められた正常売買価格の評価についての解釈指針を示したものであって、新たな課税要件を定めたものではなく、むしろ、地方税法にいう適正な時価を実現するものであるから、本件通達が租税法律主義に反するということはできない。

2  争点2について

(一) 原告は、生存権的土地と非生存権的土地を区別して課税することが憲法上の要請である旨の主張をするも、そもそもいかなる土地が生存権的土地であるのか区別の基準は明確でなく、右区別して課税することが憲法上の要請であるということはできない。

(二) 固定資産評価基準は、固定資産の課税標準となる土地、家屋及び償却資産の評価の算定方法等を定めたものである。ところで、憲法上課税標準をいかに定めるかは法律によるものとされており、課税の対象となる資産についていかなる評価方法をとるかは立法政策の問題であって、立法府の裁量に委ねられており、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実体についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかないから、それが著しく不合理なものと認められない限り、違憲の問題は生じないというべきである。そして、この理は法律により下位の法令等に委任がされた場合にも妥当するのであり、地方税法によって固定資産評価基準を定めることを委ねられた自治大臣は、次のとおり、固定資産税の財産税としての基本的性格を踏まえながら、適正均衡等の観点から地方税法による固定資産の評価の基準となる適正な時価の適用に当たり、土地の評価にあっては、売買実例方式を採用したものであるから、何ら委任の範囲を逸脱するものではなく、憲法に違反するということはできない。すなわち、

(1) 現行の固定資産評価基準によれば、居住用建物の敷地として利用されている宅地について、当該宅地所有者に売買の必要及び意思がなくても近隣土地の売買実例の高騰に伴って自動的に固定資産の評価が引き上げられ固定資産税の負担が増加することは否定できないが、土地の価格が上昇することによって土地所有者は潜在的に経済的利益を得ている。

(2) また、宅地の評価に関して賃貸料等の収益価格により評価することも考えられるが、実際の賃貸料等にも個別事情によってかなりの格差があること、実際にどのような還元利回りを採用するかについての合意を得るのは困難なこと、我が国には成熟した不動産の賃貸借市場が存在しないことなどの問題点があるため、実際には採用し難いのに対し、売買実例価額を基準とする方法は、売買実例の把握が比較的容易であり、かつ、過大又は不均衡な評価が行われた場合には比較的容易に察知することができるので、納税者の立場を確保することになるなどの観点から、もっとも妥当な土地評価の基準である。

(3) 宅地のうち、住宅用地については、住宅政策上の見地から、税負担の軽減を図るため、二〇〇平方メートルまでの部分についてはその価格の六分の一の額を、これを超える部分で住宅の床面積の一〇倍相当までについては、その価格の三分の一の額を課税標準とする特例(地方税法三四九条の三の二)が講じられており、売買実例方式を採用しつつも宅地等については一定の配慮がなされている。

右のとおりであり、一律に売買実例方式を採用した固定資産評価基準が著しく不合理ということはできず、憲法に違反するということはできない。

3  争点3について

(一) 固定資産税は、市町村の区域内に土地、家屋及び償却資産が所在する事実と市町村の行政サービスとの間の関連性という応益原則を具現しているものではあるが、応益原則は、市町村が行っている様々な行政サービスの受益を総体として受けているという意味であって、個々の行政サービスの量に着目しているわけではない。すなわち、固定資産税は、課税の根拠を応益の原則に求め、資産価値に比例的に課税する仕組みをとっているものであって、固定資産税の税額は行政サービスの便益の大きさによって決まるものではないというべきであり、固定資産税の税額が行政サービスの便益の大きさに応じて決まるとして、地方税法にいう適正な時価とはそれぞれの土地の種類、用途に応じた収益に対応する課税年度の収益還元価格であるとする原告らの主張は失当である。

(二)(1) 固定資産税評価額の地価公示価格に対する割合の具体的数値が七割程度と定められたのは、地価公示制度と固定資産税評価の趣旨の差異を踏まえ、当時の相続税評価の水準を参考に、中央固定資産評価審議会、税制調査会等での議論を経て決定、実施されたものであり、予め七割評価という結論が決められていたということはできない。

(2) 平成元年一二月二二日に成立した土地基本法では、国は、適正な地価の形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるように努めるものとするとの規定がおかれたが、地価公示制度と固定資産税評価の趣旨の差異を踏まえ、右の議論等を経た結果、地価公示価格の七割とする結論が導き出されたものであり、また、システム研究センターに設けられた土地研究委員会作成の「固定資産税における土地評価の均衡化・適正化等に関する調査研究報告書」概要において次の報告がされているとおり、地価公示価格の七割の水準を目途に平成六年度の評価替えを行ったことは合理的であったというべきである。すなわち、

ア 全国の代表的な標準宅地(一四一地点)について、収益価格(固定資産評価レベル)の精通者価格(地価公示価格レベルで不動産鑑定士等から聴取したもの)に対する割合を調査したところ、概ね五〇パーセントから九〇パーセントの範囲にあり、全地点の平均割合は概ね七割(72.0パーセント)であった。

イ 地価安定期だった昭和五〇年代における固定資産税評価の地価公示価格に対する割合を全国の県庁所在市の基準宅地(最高価格地)についてみると、全国平均で昭和五四年度61.4パーセント、昭和五七年度67.4パーセントであり、概ね七割程度の水準となっていた。

ウ 固定資産の評価において、家屋については、再建築価額を基準として評価するものとされており、県庁所在市において、平成二年に建築された家屋について抽出調査をした結果によると、再建築価額の取得価額に対する割合は、木造家屋で六割程度、非木造家屋で七割程度となっており、土地の評価水準を地価公示価格の七割程度とすることは、資産間の評価の均衡という視点からも妥当なものと考えられる。

(3) また、原告らは、センター報告書が地価の安定を前提としているものの、実際には平成三年一月ころから地価公示価格は下落傾向にあり、センター報告書が前提とする地価の安定という前提を欠く旨の主張をするが、七割程度という方針を承認した中央固定資産評価審議会は必ずしも平成三年が昭和五〇年代と同様の地価安定期と判断したわけではなく、土地に関する政策が講ぜられるとともに地価公示制度が改善されることにより地価が安定していくとの考えの下に昭和五〇年代の地価安定期における地価公示価格に対する固定資産税評価額の割合を参考にしたと解され、この場合に、地価の下落傾向がある場合には、地価公示価格と固定資産税評価額とはむしろ接近することになり、固定資産税評価額の水準を地価公示価格の七割程度とする方針の妥当性がむしろ増すとの考えも十分成り立ち得るのであり、地価が下落傾向にあったからといって、センター報告書の前提条件を満たしていないということはできない。

4  争点4について

(一) 原告ら所有の各土地と沿接する街路の状況その他の宅地の利用上の便等が類似している地価公示地点のうち、最も近くに位置するものについて平成五年価格と平成六年価格とを比較した場合、いずれの地点においてもその下落率は三割を下回っている。

(二) 土地の評価対象は全国で約一億七〇〇〇万筆にも及ぶ膨大な量に上り、これらについて毎年評価替えを行うことは、時間的、費用的に膨大となり、徴税コストの兼合いから現行の評価の仕組み及び評価体制では物理的に不可能である上、課税事務の効率化の観点から見ても適当ではないため、地方税法は据置制度を定めている。したがって、第二年度及び第三年度の各課税標準は基準年度における適正な時価そのものであるといわざるを得ず、基準年度である平成六年度における評価替えに当たり、原告らが主張するような平成七年度及び平成八年度にも十分配慮した評価をすることは地方税法は予定していないというべきである。そして、平成六年度において、原告らの主張するような逆転現象は生じていない以上、仮に平成七年度及び平成八年度に逆転現象が生じていたとしても、原告ら五名に関する本件評価替えが地方税法に違反するとの評価を受ける余地はない。

(三) 平成四年当時、実務上、賦課期日の一年半前の時点を価格調査基準日として評価替えを行うこととされていたが、それは、全国に多数存在する課税客体(宅地)について、統一した基準で均衡を図りながら評価するためには、大量一括評価の観点から定められている固定資産評価基準上の一連の手続を経て評価事務が進められる必要があり、そのためには評価事務のために相当程度の期間が必要であったためであり、実際、地方税法四一〇条は、市町村長は固定資産の価格等を毎年二月末日までに決定しなければならない旨規定しているが、二箇月間のうちに評価事務のすべてを行うことは不可能であるから、地方税法も右のような価格調査基準日の設定自体を禁止しているものではない。

5  争点5について

(一) 国家賠償法一条一項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定したものと解すべきである。

(二) 国会の義務違反について

国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ)が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題である。ところが国会議員は、立法に関しては、原則として国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではない。このことは、原告らの主張する、遅くとも本件通達を発遣するまでの時期に審議を行った上、違憲状態を解消すべき国会の義務にも当てはまり、右国会の不作為については、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないと解すべきである。

(三) 自治大臣の義務違反について

(1) 既に主張したとおり、固定資産の評価を売買実例方式によって行うべきとする固定資産評価基準及び宅地の評価を地価公示価格等の七割を目途とすべきとする本件通達にはいずれも何ら違憲違法とすべき点は認められず、したがって、原告らの主張する自治大臣の職務上の法的義務はいずれも認められない。

(2) また、本件通達は、中央固定資産評価審議会が平成六年度固定資産税評価額の評価替えについて、地価公示価格の一定割合を目標に評価の均衡化、適正化を図ること、右一定割合の具体的数値として、固定資産税の性格と地価公示制度の趣旨との差異及び昭和五〇年代の地価安定期における地価公示価格に対する固定資産税評価の割合等から七割程度とすること、右具体的数値は依命通達等の改正によって明示すること等を基本方針として了承したことなどを受けて発遣されたものであり、右時点が地価安定期でなかったからといって、自治大臣に右答申を不合理であると判断すべき職務上の義務はなく、右答申に基づき本件通達を発遣する行為が職務上の義務違反に該当するものではない。

(3) 平成六年度評価替えにおいては、価格調査基準日を平成四年七月一日としていたところ、その後の地価の下落傾向を考慮して、評価替え作業を行うことが可能なぎりぎりの時点である平成五年一月一日の時点における地価動向を勘案して地価変動に伴う価格の修正を行っており、平成五年一月一日以降の地価変動を評価額に反映させるための措置を行わなかったからといって、直ちに自治大臣に職務上の法的義務違反があったということはできない。

また、地価下落期においては、価格調査基準日における地価公示価格等(鑑定評価価格)から排除すべき不正常要素(合理的期待要素)は地価上昇期に比して減少しており、地価下落期においても本件通達により価格調査基準日における地価公示価格等(鑑定評価価格)の七割としたことによって、この三割の開差が結果的に価格調査基準日と賦課期日とのタイムラグによる地価の下落を調整する機能を果たしていたことになる解され、この点においても、平成五年一月一日からさらに時点修正すべき法的義務があったということはできない。

(4) 平成六年度においては、原告らにいわゆる逆転現象は生じておらず、さらに、前記のとおり、第二年度及び第三年度の各課税標準は基準年度における適正な時価そのものであるといわざるを得ない以上、基準年度(本件では平成六年度)における評価替えに当たり、平成八年度までの地価の下落を見越して、いわゆる逆転現象が生じないような評価を行わなければならない法的義務があったということはできない。

(四) 被告各市町の長の義務違反について

(1) 固定資産評価基準及び本件通達にはいずれも何ら違憲違法とすべき点は認められず、被告各市町の長は本件通達の内容が合理的なものであると判断して本件評価替えを行ったのであるから、被告各市町の長には何ら職務上の義務違反は認められない。

(2) また、平成六年度においては、原告らにいわゆる逆転現象は生じておらず、さらに、第二年度及び第三年度における地価の下落傾向まで考慮して価格決定を行うべき義務があったとはいえないから、この点においても、被告各市町の長に職務上の義務違反は認められない。

(五) なお、ある事項について法律解釈につき異なる見解が対立して疑義を生じ、拠るべき明確な判例、学説がなく、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれにも一応の論拠が認められる場合に、公務員がその一方の解釈に立脚して公務を執行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに右公務員に過失があったものとするのは相当ではない。

そして、本件通達は、国会を始め、税制調査会や閣議等で相当な期間をかけた議論を前提として発遣されたものであり、また、これを支持する有力な見解があったこと、さらに、平成六年度の評価替え作業が行われていた平成四年及び平成五年当時、その後も地価の大幅な下落が続くことは予測し難い状況であったことからすれば、自治事務次官による本件通達の発遣とこれに基づく被告各市町の長による価格決定が仮に違法であったとしても、国家賠償法上の過失は認められないというべきである。

6  争点6について

原告らの主張は争う。

なお、原告らは、あるべき固定資産税評価額が平成五年度の固定資産税評価額を下回ることは明らかである旨の主張をするが、収益還元価格が本来あるべき評価額であるということはできず、収益還元価格が平成五年度の固定資産税評価額を下回るとする点も、何ら裏付けは存在しない。また、負担調整措置は評価替えごとの評価上昇割合などを総合的に勘案して決定されてきたものであって、評価替えが行われなければ従前の負担調整措置を継続して適用するという原告らの仮定は失当である。

第五  当裁判所の判断

一  争点1について

1  原告らは、固定資産評価基準を自治大臣の定める告示に委ねる地方税法三八八条一項が、租税法律主義及び租税条例主義を定めた憲法八四条に違反する旨の主張をするので、この点についてまず検討する。

憲法は、その八三条において、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」と規定し、その八四条において、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定しているところ、右は租税を創設し、又は改廃するときは法律に拠らなければならないことを定めるのみならず、課税要件(納税義務者、課税物件、課税標準、税率等)及び租税の賦課徴収に関する手続が法律において定められなければならないことを規定したものであり(租税法律主義とりわけ課税要件法定主義)、また、地方税については、都道府県及び市町村は、地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について条例で定めることができ(地方税法三条)、地方税の課税に関しては、課税客体、課税標準、税率等の課税要件は、法律又は条例により定められることが必要である。

しかしながら、租税法においては多分に専門的技術的かつ細目的な事項が存在し、例えば固定資産税の場合、それぞれ立地条件、使用状況等が異なる個々の課税客体について、公平に課税するとともに、課税標準算出の手続等を明確にするためには、専門的で複雑な規定を要するものであることは明らかであって、租税法については、課税の公平化、課税要件の明確化を期する観点からも、個々の事案ごとに税額を決する基準を詳細に定めることが要請されるところである。しかしながら、これらの課税要件のすべてを法律又は条例で規定することを求めることは実際上困難であり、憲法は、租税法においても、複雑多岐にわたり急速に推移変遷する経済状況に有効適切に対処し、課税の公平と評価の均衡を達成するため、一定の範囲で課税要件及び租税の賦課徴収に関する手続を法律又は条例から下位の法形式に委任することも許容しているというべきである。

もっとも、委任が認められるといっても、それは具体的個別的な委任に限られ、概括的白地的な委任は許されないと解されるところ、具体的個別的な委任であるといい得るためには、委任を認める法律自体から委任の目的、内容、程度などが明確にされていることが必要というべきであり、また、租税法律主義(課税要件法定主義)の趣旨及び右委任が必要とされる根拠に照らせば、課税要件のうち基本的事項は法律で定めることが求められ、委任の対象は専門的技術的かつ細目的な事項であることを要するというべきである。

そこで、これを固定資産評価基準についてみると、地方税法は、課税客体を固定資産すなわち土地、家屋及び償却資産(地方税法三四二条一項、三四一条一号)、課税標準を賦課期日における適正な時価で固定資産課税台帳に登録されたもの(地方税法三四九条、三四九条の二、三四一条五号)、標準税率を一〇〇分の1.4(地方税法三五〇条一項本文)と各定めた上で、地方税法三八八条一項において、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(固定資産評価基準)について、自治大臣の告示に委ねている(なお、自治大臣は告示を発することができ(国家行政組織法一四条一項)、右告示が法律に対する下位の法形式として委任の対象になり得ることは明らかである。)のであって、地方税法は、課税要件のうち、課税客体、課税標準及び標準税率といった基本的事項を定めた上で、固定資産の評価の基準、評価の実施方法、さらにその手続といった専門的技術的かつ細目的な事項を自治大臣の告示に委任し、また、右委任は、固定資産の評価の基準等を明確にし、全国的な固定資産の評価の統一を図り、市町村間の均衡を維持するという見地から委任したものであり、委任の目的、内容、程度なども地方税法三八八条一項の規定上、明確であるということができる。

結局、固定資産評価基準を自治大臣の定める告示に委任した地方税法三八八条一項は憲法八四条に違反するものではなく、原告らの主張は採用できない。

2  次に、原告らは、固定資産の評価の基準の内容を告示である固定資産評価基準からさらに本件通達に委任することが租税法律主義を定めた憲法八四条に違反する旨の主張をするが、そもそも固定資産評価基準自体には固定資産の評価の基準の内容を通達に委任する旨の明示の規定は何ら存在せず、また、後記説示のとおり、本件通達は、新たに固定資産の評価の基準を定めたものではなく、固定資産評価基準の公的な解釈指針を示したにすぎないものであるから、本件通達が固定資産評価基準から委任を受けて固定資産の評価の基準の内容を具体的に定めたものということはできず、原告らの主張はその前提において失当である。

3  次に、原告らは、本件通達が市町村を法的に拘束するものであれば、本件通達は地方自治体の自主的な課税権を侵害し、憲法に違反する旨の主張をする。そもそも本件通達は、各都道府県知事を名宛人とするものであって、市町村又は市町村長を名宛人とするものではなく、また、市町村長は、固定資産の評価に当たっては、固定資産評価基準に法的に拘束されるものというべきであるが(なお、原告らは、固定資産評価基準は市町村長を法的に拘束しない旨の主張をするが、固定資産の評価を全国的に統一するために固定資産評価基準の定めを自治大臣の告示に委ね、市町村長は固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないとした地方税法三八八条一項、四〇三条一項の趣旨に照らし、採用できない。)、地方税法三八九条又は七四三条の規定によって都道府県知事又は自治大臣が固定資産の評価をする場合を除き、固定資産の価格を決するのは市町村長であって(地方税法四〇三条一項)、自治事務次官はもちろん、右のとおり自治大臣が固定資産の評価をする場合以外には、自治大臣にも、固定資産の評価に関しては具体的にこれを決する権限はなく(地方税法四〇二条参照)、単に固定資産の価格の決定が固定資産評価基準によって行われていないと認められる場合において都道府県知事に対して市町村長に固定資産課税台帳に登録された価格を修正して登録するように勧告をするよう指示し得るのみであり、かかる諸点に鑑みれば、宅地の評価を地価公示価格等の七割程度を目途とする旨の本件通達が市町村及び市町村長を法的に拘束するということはできない。

したがって、本件通達が市町村を法的に拘束することを前提に、本件通達が地方自治体の自主的な課税権を侵害するとする原告らの主張は採用できない。

4  さらに、本件通達は、新たに固定資産評価基準の内容を改変するものであるのか否かについて検討する。

本件通達は、昭和三八年通達の一部改正として発遣されたものであるが、昭和三八年通達は、標準宅地の適正な時価を宅地の売買実例価額から評定するとしている固定資産評価基準の具体的取扱いについて定めたもの、すなわち、固定資産評価基準の公的な解釈を定めた通達であるということができるところ、本件通達は、右昭和三八年通達が「土地の評価は、売買実例価額から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定する方法によるものであること。したがって、土地の評価にあたってはもとより現実の売買実例価額そのものによるものではなく、現実の売買実例価額に正常と認められない条件がある場合においてはこれを修正して求められる正常売買価格によるものであること。」と規定していた後に、かかる不正常要素の除去の仕方につき具体的かつ明確に分かりやすい形で示すという意味において、地価公示価格等の一定割合で、当分の間それを七割程度とする旨を明記するという趣旨で、一部改正として付け加えられたものであるから、結局、本件通達も昭和三八年通達と同様に、固定資産評価基準についての解釈を統一するための通達と位置づけることができる。

また、既に説示したとおり、固定資産評価基準は、固定資産の価格の決定権者である市町村長を法的に拘束するが、本件通達は、市町村長に対してはその法的拘束力を有しないものである。

右のとおりであり、本件通達の位置づけ及び市町村長に対する本件通達の拘束力などを考慮すれば、本件通達は、固定資産評価基準の具体的取扱いを説明し、固定資産評価基準の公的な解釈指針を示したものにすぎないということができ、本件通達それ自体によって新たに固定資産の評価額すなわち課税要件が定められたものであるとか固定資産評価基準を改変したものであるとして租税法律主義に反するということはできない。

なお、原告らは、本件通達が発遣されたことにより、結果として従前に比して固定資産税額が増税されたのであるから、法律によらずに本件通達によって新たに課税されたものである旨の主張をするが、既に見たとおり、本件通達は市町村長に対する法的拘束力を有しない解釈指針にすぎず、また、後記説示のとおり、本件通達は固定資産評価基準の解釈指針として合理的なものであり、本件通達を機縁として本件評価替えが行われたとしても、本件通達それ自体によって課税要件が変更され固定資産税額が増税されたということはできず、原告らの主張は採用できない。

二  争点2について

1  原告らは、固定資産評価基準の内容が憲法二五条、二九条及び一四条に違反に違反する旨の主張をするので検討する。

(一) まず、原告らは、憲法上、生存権的土地と非生存権的土地の区別が要請されており、国民が日常生活を営むについて不可欠の土地である生存権的土地については、固定資産税の課税に当たって、いわゆる収益還元方式によって評価をした上で課税するのが憲法二九条及び二五条の要請であるところ、固定資産評価基準は、右両者を区別することなく、売買実例を基準とする評価方式を一律に採用しているから、生存権的土地に対する課税方法として、憲法二九条及び二五条に違反する旨の主張をする。

しかしながら、原告らの主張する生存権的土地と非生存権的土地とを区別すること自体が憲法上の要請であるかは大いに疑問であり、原告らの挙げる憲法の各条項から直ちにそのようなことがいえるとは考え難い。また、ある人の生存にとっていかなる種類の財産が重要であるかは、しかく容易に答えを見い出せるものではなく、右両者の区別は困難というほかはない。

(二)(1) ところで、後述するとおり、固定資産税は、固定資産を所有する事実に着目し、その適正な時価を課税標準とする財産税であるところ、既に見たとおり、課税要件(納税義務者、課税物件、課税標準、税率等)及び租税の賦課徴収の手続は法律によって定められる必要があるが、右は、同時に、いかなる課税要件を定めるかは憲法上法律に委ねられていることをも意味している。そして、課税要件等を定めるについては、極めて専門的技術的な判断を必要とすることは明らかであって、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実体についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきであり(最高裁昭和六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁参照)、結局、固定資産の評価の基準を定めるに当たり、固定資産の利用の形態と状況、その所有者の経済的状態の相違等をどのように、どこまで勘案すべきかは、立法府の広範な裁量に委ねられる性質のものであると解される。

したがって、固定資産の評価の方法を規定した法律は、著しく不合理と認められない限り違憲の問題は生ぜず、さらに、固定資産の評価の方法が法律により適法に自治大臣の定める告示に委任されている固定資産評価基準においては、同様に、告示において定められた固定資産の評価方法である売買実例方式が著しく不合理と認められない限り違憲の問題は生じないというべきである。そこで検討するのに、まず、固定資産税を課税するに当たっては、全国に存在する大量の固定資産を、三年に一度の基準年度ごとに評価することが求められ、しかも、課税標準は賦課期日における適正な時価とされている以上、賦課期日に可能な限り近接した時点において固定資産の評価をすることが求められており、大量迅速に評価するために、すべての土地について一律の評価方式を採用する必要性を否定することはできない。また、売買実例方式であれば、原告らの主張するように、売買を予定していない住宅用地についても、周辺の土地価格の高騰によって課税標準が高騰することは否めないものの、右高騰が合理的なものであれば、当該土地もその実質的な価格は上昇しているのであり(仮に不合理なものであれば、前記説示のとおり、正常と認められない要素として修正されることになっている。)、住宅用地といえども土地の実質的な価格が上昇する以上、それによる潜在的な利益を受け、右土地を売却することにより右潜在的利益を具体的に取得することも可能なのであるから、右上昇に応じて課税標準が上昇することをもって直ちに不合理ということもできない。さらに、既に見たとおり、地方税法において、住宅用地等については、課税標準の特例措置等が設けられるなど立法上軽減措置が講じられており、この点において住居用地等には一定の配慮がなされているところである。

以上のとおりであり、これらの諸事情に鑑みれば、原告らの主張する生存権的土地についても一律に売買実例方式を採用して評価することが不合理ということはできず、固定資産評価基準が憲法二五条、二九条及び一四条に違反するとの原告らの主張は採用できない。

(2) なお、原告らは、固定資産税評価額は不動産取得税や登録免許税の基準とされ、また、公的な機関の手数料の基準ともされる等国民生活の上で重大な影響を与える諸々の指針とされていることから、固定資産の評価の方法が不合理か否かの判断に当たっては、課税標準の特例措置等各種の負担調整措置の結果を考慮すべきでない旨の主張をするが、固定資産の評価はあくまでも固定資産税を課するための手段であるから、固定資産の評価の方法が不合理か否かは各種の負担調整措置の存否をも併せ考慮した上で最終的に決すべきは当然であり、また、固定資産税評価額を課税等に当たっての基準とする各種税等についても、右各種税等ごとに負担調整措置を採るのか否か別途考慮することができるのであって、原告らの主張は採用することができない。

(三) さらに、原告らは、生存権的土地についても非生存権的土地と同様に売買実例価格を基準として土地の価格を決定することは応能負担の原則を定めた憲法一四条に反し、著しく不合理であり公平を欠く旨の主張をするところ、原告らの主張する生存権的土地をその他の土地と区別して課税することが憲法上の要請ということができないことは右(一)で説示したとおりであり、さらに、原告らの主張を前提としても、生存権的土地と非生存権的土地の評価が一律であることは、税負担においても一律であることを直ちに意味しないから(現に、地方税法も三四九条の三の二において、住宅用地について面積の大きさに応じて本来の課税標準額の三分の一又は六分の一に減額されている。)、生存権的土地と非生存権的土地の評価が一律であることが応能負担に反するとする根拠は見い出し難く、原告らが主張する生存権的土地についても一律に売買実例方式によって評価することが憲法一四条に違反するということはできない。

三  争点3について

1(一)  既に見たとおり、地方税法は、基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたものを固定資産税の課税標準とし、現実に当該固定資産が収益を挙げているかに関わりなく右固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者・以下同じ。)に固定資産税を課している以上、固定資産税は、資産の客観的な価値に注目し、右客観的な価値のある資産を所有する者に対して課税する財産税というべきである。このような固定資産税の性質からすれば、地方税法三四一条五号にいう適正な時価とは資産の客観的価値をいうというべきであって、右資産の客観的価値は当該固定資産又は条件の類似する固定資産の取引事例の集積により取引価格によって判断せざるを得ない性質のものである以上、右取引価格を基礎として非正常な要素を排除して判断すべきであり、地方税法三四一条五号にいう適正な時価とは、社会通念上正常な取引において成立する当該土地の取引価格すなわち客観的な交換価値をいうものと解するべきである。

(二)  ところで、原告らは、行政から受けているサービスの程度によって固定資産税額を決すべきことを根拠として、適正な価格を収益還元価格と解すべきである旨を主張する。なるほど、固定資産税は、土地その他の固定資産が市町村による行政サービスから受ける受益に着目して、その受益の度合を表すと認められる固定資産の価格を課税標準とする応益原則に立脚した財産税としての性質を有するが、個々の土地所有者が個々の土地を通じて行政からいかなる程度の行政サービスを受けているのかは、一概には判断しがたいものであり(例えば、行政から受けるサービスとしては、警察や消防等が考えられるが、当該土地が警察署に近ければその受けている行政サービスが大きいのか等は一概にいえず、また、その程度を判断することは極めて困難である。)、結局、かかる場合の受益とは、個別に考えるのではなく、当該土地を所有することにより当然考えられる一般的な受益といわざるを得ない(例えば、市町村の行う道路整備、上下水道の敷設、学校等の教育施設の充実などにより、一般的に固定資産の価値は増大する。)。さらに付言すると、収益還元価格を算定するには、資本還元率をどのように把握するか等の問題が存在し、地方税法にいう「価格」や「時価」から直ちに導き出すことは困難であるほか、収益還元方式に関する明示的な規定が置かれていないということは、地方税法が収益還元方式の採用を断念したものとみることができる。現行法の規定を前提とする限り、取引価格とする考え方が採用されているものとみるのが最も自然である。

以上のとおりであって、行政から受けているサービスの程度によって固定資産税額を決すべきことを根拠として地方税法にいう適正な時価を収益還元価格と解すべきとする原告らの主張は採用できない。

(三)  また、原告らは、地方税法にいう適正な時価は憲法に適合するように解釈すべきであり、生存権的土地については収益還元価格をいう旨の主張をするも、原告らの主張する生存権的土地をその他の土地と区別して課税することが憲法の要請ということはできないことは既に説示したとおりであり、原告らの主張は採用できない。

2  そこで、さらに進んで本件通達の内容の合理性について判断する。

(一) まず、原告らは、平成二年一〇月の時点において七割評価という数字が出ており、中央固定資産評価審議会から委託されたシステム研究センターは地価公示価格の七割となる旨の結論を導き出すようあらかじめ指示されていたものであり、いわば最初に結論ありきであった旨の主張をし、甲第四二号証にも、国会審議では七割評価という言葉は平成二年一〇月時点で出ており、自治省はセンター報告書のあらすじを決めていた旨の記載があるところ、確かに参考数値として七割という数字も出ていたものと認められるものの、それ以上に当初からシステム研究センターが固定資産税における土地の評価を地価公示価格の七割とする旨の結論を導き出すようあらかじめ指示されていたと認めるに足りる証拠はなく、証人堤の証言するとおり、最終的に地価公示価格の七割という数字で確定したのは、平成三年一一月に開催された中央固定資産評価審議会における議論の後であったというべきである。

(二)(1) 次に、原告らは、本件通達において、宅地の評価を地価公示価格等の七割を目途としたことに何ら合理性が認められない旨の主張をするので検討する。前述のとおり、地方税法三四一条五号にいう適正な時価とは、社会通念上正常な取引において成立する当該土地の取引価格すなわち客観的な交換価値をいうものと解すべきところ、土地の適正な時価の算定について、地方税法は、課税対象となる土地が全国に大量に存在し、限りある人的物的設備を活用しても、これらについて、反復・継続的にそれぞれ一定の時間的制約の中で課税の基礎となるべき価格の評価を実施することが困難であることに鑑み、これらの諸制約下における評価方法を、自治大臣の定める固定資産評価基準によらしめることとし、もって、大量の固定資産について反復・継続的に実施される評価について、各地方公共団体の評価の均衡を確保しようとしているものということができる。すなわち、固定資産評価基準は、各筆の土地を個別評価することなく、諸制約の下において大量の土地について可及的に適正な時価を評価する技術的方法と基準を規定するものであり、これが適正な内容をもち適正に運用される限り、これによって求められた価格は適正な時価と考えられる。しかるに、土地は、従来、一般に適正な時価をはるかに下回る価格で評価されてきた上、本件通達の発遣当時、固定資産税評価額の算定評価は地方公共団体によってかなりのばらつきがあり、到底納税者間の公平を期することができず、評価の全国的な均衡を図って課税の公平を確保することは緊急の課題であったという社会的状況の下で、公的土地評価相互間の均衡化・適正化を図るべきであるという社会的要請を受けて、固定資産税評価と同様に売買実例価額をその評価の基礎とする地価公示価格(地価公示法は、適正な時価の形成に寄与することを目的として、標準地を選定し、その正常な価格を公示するものとし(同法一条)、「正常な価格」とは、土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格をいうと規定しているから(同法二条二項)、地方税法にいう「適正な時価」と右「正常な価格」とは同一の価格を志向する概念ということができる。)を基礎として、固定資産税評価額の全国的な統一均衡を図るために、固定資産評価基準の内容及び運用のより適正化を図るための解釈指針として、標準宅地の評価を地価公示価格等の一定割合とすること自体は何ら不合理ということはできない。

そこで、次に、右一定割合を地価公示価格等の七割とした本件通達の内容の合理性について検討する。既に見たとおり、固定資産評価基準では、標準宅地の適正な時価は、個別鑑定と同様の方法で宅地の売買実例価額から評定するものとされ、売買実例価額に正常と認められない条件がある場合にはこれを修正して売買宅地の正常売買価格を求めた上、当該売買宅地と標準宅地の位置、利用上の便等の相違を考慮して、右正常売買価格から標準宅地の適正な時価を比準評定するとされているところ、地価公示価格を基礎として標準宅地の評価を考える場合、地価公示価格における地価の上昇に対する期待等不正常要素、すなわち、固定資産評価基準でいうところの正常と認められない条件は、経験則上、地価公示価格に対して、通常は三割の範囲内に収まるものと推測され、標準宅地の評価を地価公示価格等の七割とすることは、それなりに合理的な評価方法であるということができる。また、センター報告書(甲第三一号証)によれば、①全国四七の都道府県庁所在市及び都道府県庁所在市以外の政令指定都市(川崎市及び北九州市)の合計四九都市における代表的な標準宅地一四一地点についての平成三年中における収益価格から異常値を除いた収益価格の精通者価格に対する割合は、概ね五〇ないし九〇パーセントの範囲にあり、全地点の平均割合は概ね七割(七二パーセント)であったこと、②家屋については再建築価額で評価されるところ、都道府県庁所在市において平成二年に建築された家屋について抽出調査した結果、再建築価額の取得価額に対する割合は木造家屋で六割程度、非木造家屋で七割程度であったこと、③昭和五〇年代初頭から中頃にかけての地価安定期における固定資産税評価額の地価公示価格に対する全国の県庁所在市の基準宅地(最高価格地)の割合について、各都市について若干の幅があるものの平均的には昭和五四年度が61.4パーセント、昭和五七年度が67.4パーセントであり、七割程度の水準にあったのであり、また、全国の都市(六五六市)における基準宅地についても昭和五四年度が61.7パーセント、昭和五七年度が65.7パーセントであったことが認められ、これらの諸事情を総合勘案すれば、全国的な解釈指針として示す地価公示価格等の一定割合を、七割程度とすることには合理性が認められるというべきである。

(2)ア ところで、原告らは、センター報告書について、センター報告書は、全国四七の都道府県庁所在市及び都道府県庁所在市以外の政令指定都市(川崎市及び北九州市)の合計四九都市における代表的な標準宅地についての平成三年中における収益価格の精通者価格に対する割合が概ね七割であったとするが、センター報告書は、いわゆる都会の一等地のみを取り上げて比較しているにすぎないし、そもそも収益価格の精通者価格に対する割合が七割に集中しているものではなく、平均割合を導く際に収益価格の精通者価格に対する割合が八パーセントであった地点や一六六パーセントであった地点があるにもかかわらず、異常値として除かれていること、また、家屋の評価が地価公示価格の六割ないし七割程度の評価であったとしても、償却資産の評価額は取得価格そのものとされている以上、土地についての固定資産税評価額を家屋についての固定資産税評価額とのバランスをとるため地価公示価格の七割とすべき理由はなく、家屋の中で圧倒的多数を占める平成二年以前に建築された家屋を除いて平成二年に建築された家屋のみを比較の対象としていることには恣意性が現われていること、さらに、全国の県庁所在市の基準宅地(最高価格地)と地価公示価格が最高価格となる地価公示の標準値は通常異なる土地であり、かかる二点を比較しても意味のある結論を導き出すことはできないし、センター報告書に記載の数値も、昭和六三年度は47.2パーセントであり、六割台の数値を示しているのも昭和五四年度及び昭和五七年度のみであり、かかる調査結果から七割との数値が導き出せるのは疑問であること、加えて、仮に地価安定期において固定資産税評価額の地価公示価格に対する割合が七割程度であったとしても、本件評価替えの時点は既に地価安定期ではなく、地価は下落傾向にあったから、七割程度とする前提を欠くなどと主張し、甲第四二、四三号証にも一部これに沿う記載がある。

しかし、固定資産税の評価においては、指定市に指定されている都道府県庁所在市における一平方メートル当たりの路線価が最高である基準宅地の適正な時価の調整等を通じて全国的な評価の均衡を図るものとされており(固定資産評価基準第1章第3節三2参照)、全国的な平均数値を導き出す際に、代表的と思われる標準宅地を抽出し、その中から異常値と思われるものを排除した上で平均値を導き出す手法に不合理とすべき点はなく、全国的な解釈指針としての通用性からは、その平均値は十分参考に値するものである。また、同じ不動産である家屋との比較を行うことは、資産間における評価の均衡を図る観点から合理性はあって、センター報告書が平成二年に建築された家屋についての数値を参考にしていることについて見ても、甲第四二、四三号証にも平成二年度に建築された家屋のみを参考としていることについて特に恣意的とする指摘はなく、他に恣意的な評価であるとするに足りる事情は認められない。さらに、センター報告書は、全国の県庁所在市の基準宅地(最高価格地)に対して地価公示最高価格に対する割合を算出しており、原告らの指摘するとおり、右両土地が一致しない土地もあると考えられるものの、いずれも最高価格地であり、比較としては概ね正当であるということができ、また、センター報告書は、地価安定期であった昭和五〇年代の数値を参考としており、前記昭和六三年度の数値を参考としなかったとしても、センター報告書自体が不合理ということはできない。

イ もっとも、センター報告書の内容は、地価が当面全国的に安定していることを前提としているところ、本件通達が発遣された時点をもって地価安定期であったということはできず、地価は全国的に下落傾向にあったものということができる。しかし、平成三年ころから始まった地価下落期においては、地価公示価格における地価上昇に対する期待等不正常要素は地価安定期に比して減少すると考えられ、その意味においては、地価下落期においては、適正な時価をもって評価される固定資産税評価額は地価公示価格に近接するものということができ、地価公示価格の七割程度とすることには合理性が認められるのであって、結局、原告らの主張は採用できず、既に説示したとおり、本件通達で示された地価公示価格等の七割という数値は、固定資産税評価額の全国的な統一均衡を図って課税の公平を確保する必要性が認められた中で、あくまでも全国的な解釈指針として導き出されたものであり、当然ながら全国いずれの地点についても標準宅地の評価を地価公示価格等の七割とするものではなく、全国的に見れば地価公示価格等の概ね七割が妥当とするものであり、本件通達の内容に不合理とすべき点は認められない。

四  争点4について

1(一)  既に説示したとおり、地方税法にいう適正な時価とは、社会通念上正常な取引において成立する当該土地の取引価格をいうと解すべきであるところ、固定資産評価基準は、公示価格の算定と同様の方法で評価した標準宅地の価格のおよそ七割をもって、その適正な時価として扱うことにしたものであって、地方税法にいう適正な時価が、一概に、地価公示価格そのものとも地価公示価格の七割ともいうことはできない。ところで、地方税法は、固定資産税の賦課期日を当該年度の初日の属する年の一月一日としているものの(地方税法三五九条)、土地に対する固定資産税は、全国の土地を同一の基準で評価し、さらに、市町村が土地の評価をした後、都道府県間及び各都道府県内の市町村間の評価の均衡を図るためにそれぞれ所要の調整を行うことが必要である等(固定資産評価基準第1章第3節参照)、一連の固定資産評価の事務は一定の期間を要するものであり、地方税法が固定資産の評価に基づいて固定資産税を賦課する制度を採用している以上、賦課期日を遡ったある一定の時点において固定資産の評価をすることが前提となっており、賦課期日を遡る一定時点を価格調査時点とすること自体、何ら地方税法に反するものということはできない。

(二)  しかし、地方税法は、土地に対する固定資産税の課税標準を基準年度に係る賦課期日における時価で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたものをいうとしている以上、適正な時価の算定基準日は賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日であり、平成六年度の評価替えについて見れば、適正な時価の算定基準日は、賦課期日である平成六年一月一日であるというべきである。この点に関し、証人堤は、膨大な事務作業が必要であることを理由に、地方税法にいう適正な時価の算定基準日は、賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日ではなく、本件評価替えについて見れば、価格調査基準日である平成五年一月一日である旨の供述をする。確かに、大量の土地について、将来の価格の変動を確実に予測することが困難であることは否定できないものの、価格調査基準日を可能な限り賦課期日に近接させることによって、価格の変動を一定の範囲内において予想することは可能であって、その場合において、課税処分の謙抑性の見地から、適正な時価を一定の範囲で下回った評価をすることは何ら地方税法の趣旨に反するものではなく(なお、著しく下回るような場合には、別途、裁量権の逸脱の問題も生じてこよう。)、かかる観点からすれば、控えめな評価によって、価格調査基準日において、賦課期日における適正な時価を上回らない評価を行うことは十分可能なのであり、さらに、右のとおり、適正な時価とは賦課期日におけるそれを指すことは条文上明白であることからすれば、前述のとおり、適正な時価の算定基準日は賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日であると解するほかはない。

(三)  しかし、本件評価替えは、標準宅地の適正な時価の評価に当たって、平成四年七月一日時点における地価公示価格等を求めた上で、これらの価格に平成五年一月一日までの地価下落の変動率を乗じた価格の七割を目途として実施されている。そこで、原告ら五名に関する本件評価替えが違法と評価されるのか否かについて検討するのに、既に見たとおり、地方税法にいう適正な時価は、地価の上昇に対する期待等不正常要素を排除できない地価公示価格そのものとは通常異なるものであるが、地価下落期においては、右不正常要素は地価上昇期に比して減少し、地価公示価格と地方税法にいう適正な時価が近接する傾向にあったと考えられるにもかかわらず、本件評価替えにおいても、平成四年七月一日時点における地価公示価格等を求めた上で、これらの価格に平成五年一月一日までの地価下落の変動率を乗じた価格の七割を目途として実施されたことにより、地価上昇期及び地価安定期以上に、固定資産税評価額が適正な時価を上回るという事態が生じないようにするための安全弁が結果的に設けられていたということができる。

そして、甲第三二号証(平成六年一月一日における大阪府下公示価格一覧表の抜粋)には、平成五年一月一日から平成六年一月一日にかけて地価公示価格が三割以上下落した地価公示の標準地は大阪市西区に所在する九箇所である旨の記載があるところ、税理士であり、いわゆる税金オンブズマンの代表委員を務めていた原告Aは、平成六年度の評価替えにおいて大阪市内において固定資産税評価額が地価公示価格を上回るいわゆる逆転現象が生じたのは九箇所と聞いている旨の供述をしており、かかる原告Aの供述及び甲第三二号証によれば、大阪市内において右逆転現象が生じたのは右西区の九箇所のみとも思われ、実際、別紙下落率一覧表記載のとおり、原告ら五名所有土地の近隣に位置する地価公示の標準地の平成五年一月一日から平成六年一月一日にかけての地価公示価格(ただし、原告Lについては大阪府基準地価格)の下落率は三割を下回っているのであって、かかる点に徴すれば、原告ら五名所有土地の地価は、平成五年一月一日から平成六年一月一日にかけて、三割以上は下落していないものと推認され、また、他に原告ら五名所有土地に関する本件評価替えが地方税法にいう適正な時価を上回ると認めるに足りる証拠はないのであって、これらの事情を総合勘案すれば、本件においては、原告ら五名所有土地についての本件評価替えが平成六年一月一日の時点における適正な時価を上回ったと認めることはできず、原告らの主張を採用することはできない。

2  最後に、据置制度を採用している土地の評価に関しては、基準年度である平成六年度のみならず、平成七年度及び平成八年度における地価の動向をも勘案して評価することが求められるのか否かについて検討する。この点に関し、原告らは、地方税法にいう適正な時価とは、当該賦課年度における適正な時価をいう以上、基準年度のみならず、第二年度である平成七年度及び第三年度である平成八年度における地価の動向をも勘案して本件評価替えを行うべきであり、地価の下落により、平成七年度及び平成八年度との関係においてもその適正な時価を上回る評価となっている原告ら五名所有土地に関する本件評価替えは違法である旨の主張をする。しかし、地方税法にいう適正な時価が当該賦課年度における適正な時価をいうのかはともかく、地方税法の法文上は、第二年度及び第三年度においても、固定資産税の課税標準は原則として基準年度に係る賦課期日における適正な時価とされているのであり、第二年度及び第三年度においても、固定資産税評価額は基準年度における適正な時価(本件でいえば平成六年一月一日における適正な時価)と解することが地方税法の文理解釈としては最も正当である。また、地価は、国の土地政策の内容のみならず、景気の動向及び土地需要の程度等種々の事情により変わり得るものであり、価格調査基準日において賦課期日における時価を予想するだけでなく(価格調査基準日を設けるとしても可能な限り賦課期日に近接させるべきことは前記説示のとおりである。)、第二年度及び第三年度の賦課期日における地価の動向まで基準年度の評価替えにおいて予測することは事実上困難なところであって、むしろ、地方税法が据置制度を採用している以上、その後の急激な地価の変動等予定外の事態が生じた場合には、固定資産の評価方法に関する地方税法の改正や課税標準の特例措置、さらには税率の調整等によって対処することが予定されているとも考えられるのであって、これらの点に鑑みれば、基準年度における固定資産税評価に当たっては、基準年度に係る賦課期日における適正な時価をもって評価すれば足りるというべきであり、本件評価替えに当たっては、平成七年度及び平成八年度における地価の下落をも勘案して行うべきであったということはできず、原告らの主張は採用できない(なお、原告らは、平成五年一月一日以降も地価は下落していたのであるから、平成五年一月一日における時点修正のみならず、平成五年七月一日における時点修正を行わなかった自治大臣の不作為は違法である旨の主張をするが、固定資産の評価が賦課期日における適正な時価を上回らない以上、本件において、価格調査基準日後の地価の下落を考慮して時点修正を行うべき義務が自治大臣にあったということはできず、原告らの主張は採用できない。)。

第六  結論

以上のとおりであり、原告らの請求の前提となる憲法違反及び地方税法違反の主張はすべて理由がないから、国会、自治大臣及び被告各市町の長に職務上の注意義務に反する行為があったことを認める余地はなく、したがって、国家賠償法上の違法行為はいずれも存在しないといわなければならない。よって、原告らの請求は、その余の点(争点5及び争点6)について判断するまでもなくすべて失当であるから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三浦潤 裁判官増田隆久 裁判官谷村武則)

別紙<省略>

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